審査基準 vol.2
前回のコラムに引き続き、サポート要件の類型(3)の事例を紹介したいと思います。
(参考)(3)出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはえない場合。
審査基準には、以下のような事例が掲載されています。
【請求項1】
X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中のエネルギー効率がa~b%であるイブリッドカー。
【発明の詳細な説明】
・ベルト式無段変速機に対してY制御を行う制御手段を備えたハイブリッドカー
・X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中の該ハイブリッドカーのエネルギー効率がa~b%の範囲内
・ベルト式無段変速機は、無段変速機の下位概念
・ベルト式以外の形式の無段変速機に対してY制御を行う制御手段を採用してもよい
・X試験法の定義
(拒絶理由)
請求項1には、a~b%という高いエネルギー効率のみによって規定されたハイブリッドカーが記載されているが、発明の詳細な説明には、上記エネルギー効率を実現したハイブリッドカーの具体例として、ベルト式無段変速機に対してY制御を行う制御手段を有するハイブリッドカーが記載されているのみである。出願時の技術常識に照らせば、ベルト式以外の形式の無段変速機に対してY制御を適用した場合にも同様の高いエネルギー効率を達成できることが理解できるから、無段変速機に対してY制御を行う制御手段を有するハイブリッドカーまで、上記具体例を拡張ないし一般化できると認められるが、ハイブリッドカーの技術分野においては、通常、上記エネルギー効率はa%よりはるかに低いx%程度であって、a~b%なる高いエネルギー効率を実現することは困難であることが出願時の技術常識であり、上記エネルギー効率のみにより規定された請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。
それでは、上記の事例について考えてみたいと思います。まず、上記拒絶理由のポイントは以下2点です。
(1)ベルト式無段変速機に対してY制御を行う制御手段を有するハイブリッドカーの具体例を、無段変速機に対してY制御を行う制御手段を有するハイブリッドカーまで拡張ないし一般化するのは「OK」
(2)エネルギー効率のみより規定した請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化するのは「NG」
これに対し、審査基準では以下のような補正が一例として記載されています。
【請求項1】
無段変速機に対してY制御を行う制御手段を備え、X試験法によりエネルギー効率を測定した場合に、電気で走行中のエネルギー効率がa~b%であるハイブリッドカー。
上記補正のポイントは、実施例の「ベルト式無段変速機」に限定するのではなく、審査官が拡張ないし一般化を認めた「無段変速機」(ベルト式無段変速機の上位概念)に限定することです。
以上のように、実施例の具体例を拡張ないし一般化できるか否かについては、審査官が出願時の技術水準を考慮して判断することになります。そのため、拡張ないし一般化できるラインを出願時点に判断することは困難です。そこで、出願人側としては、減縮材料を明細書に盛り込んでおき、拒絶理由通知書で指摘された内容に応じて補正するというスタンスでよいのではないかと思います。
(文責:泉)