弊所の泉弁理士が山口大学での知的財産セミナー(12/14)に参加しました。
12月14日に山口大学で開催された知的財産セミナーに参加してきました。
前半は、美術の著作者を保護するために誕生した「追及権」に関する講演でした。追及権制度とは、著作者から著作物(絵画等)が販売された後、再度、あるいは再々度転売された場合に、転売額の一部を著作者に支払う制度です。
現在、追及権は、主に欧州各国を始めとするおよそ90カ国において、著作権法の一部として組み込まれたり、特別法として制定されたりしていますが、我が国では未だ導入されていません。
フランスで追及権の導入のきっかけになったのは、画家ミレーの「晩鐘」という作品だったそうです。「晩鐘」は、当初1000フランで販売されましたが、転売される度に販売額が高騰し、30年後には当初の800倍(80万フラン)に到達したそうです。ただ、いくら価格が高騰しても、ミレーの遺族には1円も入らず、結果として極貧生活を送ったことなどへの反省が背景にあるようです。
追及権を既に導入している国においては、追求権の対象はオリジナルの原作品(原作品とみなされる複製)に限られ、保護期間も著作権と同じ没後70年に設定されているようです。また、全ての取引が追及権の対象になるわけではなく、プロの美術品購入者、販売者あるいは仲介者が関与する取引に限られており、追及権料は概ね0.25~4%程度に設定されているようです。
追及権を導入するメリットとしては、金銭的収入が得られ美術の道で生計を立てられるという期待や、転売された事実を知ることで自作品が評価されたという自信を得ることで、著作者に創作意欲を与えることが挙げられます。
一方、デメリットとしては、美術品が売れなくなる、美術市場が追及権を導入していない国へ移動する等が挙げられますが、1億円の絵画を購入する人がその数パーセントの追及権の存在を理由に購入を控えることは考えにくく、また、経済分析においてもこれらの事態には至らないとの結果が出ているようです。
また、追及権は国家間においては相互主義です。よって、追及権が導入されている国において日本人著作者の絵画が転売されたとしても、追及権が導入されていない日本の著作者が追及権を主張することは出来ません。
私自身、今回のセミナーで初めて「追及権」の存在を知りました。我が国で導入を検討するのであれば、まずは「追及権」をより多くの人に認知してもらう必要があると感じました。
後半は、知的財産業界の重鎮、高林龍先生による「特許判例における最新の動向」の講演でした。テーマとしては、「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈」、「均等侵害の判断基準」、「訂正の再抗弁を主張する要件」、「延長された特許権の効力」の4テーマでした。
どのテーマも大変興味深かったのですが、実務に影響が大きいテーマはやはり「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈」だと感じました。プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下、「PBPクレーム」という。)は、プラバスタチンナトリウム事件で注目を浴びましたが、PBPクレームの解釈については最二判2015.6.5において明確に示されています。
PBPクレームとは、物を表現するに際して製造方法を用いて表現されたものであり、例えば「A物質とB物質とをα方法で製造してなる物質」といったクレーム(特許請求の範囲)です。
従前、PBPクレームを「物」の発明と捉え、物が同一であれば方法が異なっていても権利侵害とみなす「物同一性説」と、方法が異なる場合は権利侵害にならない「製法限定説」とがありました。
この点、知財高判2012.1.27(プラバスタチンナトリウム事件)において、物を構造で記載することができるのに敢えて製法を記載して特定している場合を「不真正PBPクレーム」として製法限定説が採用されました。一方、バイオ分野等のように最終生成物を構造で記載することが不可能又は困難なため製法を記載して特定している場合を「真正PBPクレーム」として物同一性説が採用されました。ただ、この立場を採用すると、不真正PBPクレームは、製法に特許性があれば、登録が認められてしまいます。
これに対し、最二判2015.6.5では、知財高裁判決を破棄し、PBPクレームは出願段階でも特許発明の技術的範囲の認定においても「物同一性説」を採用すべきとしました。ただし、物を構造や特性で特定することが不可能又は非実際的でないにもかかわらず、クレーム中に製法記載がある場合は、物を生産する方法の発明と区別が不明確であるので、明確性要件違反(特許庁第36条第6項第2号)に該当するとされました。
また、千葉勝美裁判官は補足意見において、明確性要件違反のPBPクレームは出願段階では拒絶理由になるし、権利成立後は無効事由となると判事しています。
実務上、出願段階であれば補正によってカテゴリー変更すれば済みます。他方、権利成立後であれば訂正審判あるいは訂正請求でカテゴリー変更しようとすると、発明内容の実質的変更(特許法第126条第6項)であるとして許容されません。この点は現在改められる傾向にあるようですが、現段階においては、クレーム中の方法的記載は極力避けたほうが良さそうです。
(文責:泉)